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こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

「本社」

【1】
本社は東京四ツ谷にあった。最初の面接で訪れただけで、その後行っていない。用事もないので。
面接は、社長が不在だったので、総務部長がおこなった。特に問題もなく、世間話のような面接になった。
面接の後、採否には関係ないが、国語と数学のテストと心理テストがあった。
国語は全問解けた。正解かどうかはわからないけど。数学は、応用問題で難しかった。
同年代の社員が、テスト中覗き込んできて、「数学は、難しそうですね」と言う。理系の仕事でもあるので、できないことは恥ずかしかったが、後で聞くと誰も苦労したようだった。
心理テストは、100問の質問にはい、いいえで答えるものだった。人の心を見透かされてるようで、気持ち悪かった。そういう心理テストは、よく当たるとも言われていた。

【2】
国語と数学のテストの結果はよかったようだ。新卒3人と中途入社3人の中ではトップだったようだ。
「すごい優秀なんだな」と言われたがうれしくなかった。新卒組は何をやってきたんだというより、高卒後10年近く経っている俺より成績が下というのが情けなかった。
心理テストの結果は「誠実そうな印象を与える」だった。「誠実そうな」という部分が気にいらなかった。なんか詐欺師みたいな言われ方をした感覚だ。
支社勤務が始まって、課長と話しているとき「あの心理テストってのは気持ち悪いですね。廃止しませんか」と言ってみた。
総務部長が不在の時だったので、課長もなんとも返事はできないようだった。
「おまえ、自分で本社に電話して話しろ。心理テストは本社がやっているものなんだから」

【3】
「じゃあ、電話しましょうか」
本社に電話した。電話に出たのは、面接の時にも会った、同年代の若い社員だった。
自分は、中途入社のヤマザキと名乗ると
「お久しぶりですね。元気でやってますか?」
と言ってきた。覚えていてくれたのはうれしかったけど。
「元気でやってます。ところで、総務部長か社長いらっしゃいますか?」
「今、二人とも外出中ですが、なんの御用でしょうか。私が伺っておきますが…」
「いや、上の人のほうがいいんだけど。入社時に受けた心理テストのことでね」
「心理テストがどうかしましたか」
「いえね、会社には人事のプロもいるって支社の総務部長が言ってたけど、業者の心理テストなんか、参考にしてるようじゃたかが知れてるねって話で…」
「人事のプロって言ってました?」

【4】
「そうだよ、うちには人事のプロがいるからなぁって言ってたよ。それにしちゃおかしいだろ。業者の心理テストなんか参考にして」
「心理テストは、採否に影響しないし、ただの参考程度ですから」
「人事のプロが心理テストを参考にしてるのはおかしいだろう。人を見る目がないから、心理テストなんか参考にするんだよ。人事のプロじゃないんだろう」
「人事のプロでないと言われれば、そうかもしれないなと思います」
「え!引いちゃうの?どっちかにしてほしいね。人事のプロであるならば、自分の目を信じてほしいし。自信がないなら心理テストを参考にしてお茶を濁してればいい」
「では、ヤマザキさんは、心理テストを廃止すべきだと考えているということでいいですか」
「そうですね。廃止してください」

【5】
「ヤマザキさんが、心理テストを廃止すべきだとおっしゃるなら、その方向で検討してみたいと思います」
「それでいい。でも、本社の一社員の権限でできることなの?」
「そこなんですよね、問題は。部長や社長に掛け合ってやってみたいと思います」
「だいじょうぶかい。それをやって自分の立場を窮屈にしたり、自分の首を絞めるようなことにならないかい」
「お気遣いありがとうございます。がんばってみます」
「心理テスト廃止は、会社のため社員のためっていう覚悟でやってほしい」
「わかりました」
「そのほうが、自分を責めなくて済むからね…俺のことは責めてもいいよ」
「いいえ、そうはいきません。僕に仕事を与えてくれた人でもありますから」

【6】
「あ、そう。普段仕事があまりないの?」
「ないですねえ」
「本社勤務ってそういうものなんだ。たいへんだね」
「いつかは支社に行きたいんで、そのときはよろしくお願いします」
その後、俺は神戸に長期出張になったけど、本社の彼は、心理テスト廃止のためにがんばってくれたようだ。「仕事」がしたかったのだろうとも思う。
支社の課長から電話があった。
「おい、今年から入社時の心理テストがなくなったそうだぞ」
「それはよかった。今年入社すればよかった」
電話の向こうで「今年入社すればよかったって言ってるぞ」と笑いあう声が聞こえていた。
(終)


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